弁天通に吹く新しい風。人がつながる交差点「MMM(トリプルエム)」井上さんが描く、ワクワクする街の未来

名古屋城の北西に位置し、昭和には市電の交通拠点として栄えた「弁天通商店街」。

レトロな街並みと歴史の重みが息づくこの場所で、今、何やら新しい風が吹き始めています。

前回の沢井理事長からバトンを受け取ったのは商店街の一角にある多目的スペース「MMM(トリプルエム)」を主催する井上真里さん。

今回は、生まれ育ったこの商店街で井上さんが仕掛ける、常識にとらわれない「街のアソビ方」と、その根底にある熱い想いについて、じっくりとお話を伺いました。

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花屋の娘が作った「街の交差点」

地下鉄鶴舞線「浄心駅」から徒歩数分。ガラス張りの開放的な空間が目を引く「MMM(トリプルエム)」は、朝はモーニングが楽しめるカフェ、週末にはマルシェやギャラリー、そして時には地域の人々の相談所として、日々表情を変えます。

井上さんは、この商店街で長年続いたお花屋さんの娘として育ちました。ご両親の引退を機に、店舗を持たないネットショップ事業へと業態を転換。一時は商店街から物理的な拠点をなくしていましたが、仕事の合間に目にする街の風景が、少しずつ心に引っかかるようになったといいます。

「昔に比べて、街がちょっと寂しくなってきたなって。商店街のおじいちゃんやおばあちゃんが、買い物の途中で座って話せる場所も少なくなっていて。『あんたのとこ、コーヒー屋やってちょうだいよ』なんて声を、ちょろちょろ聞いてたんですよ」

そんな地域の切実な声と、ある大きな変化のタイミングが重なります。それは、近隣に愛知県新体育館「IGアリーナ」が開業するというニュースでした。

「アリーナができれば、人の流れが絶対に変わる。この場所が街の起爆剤になればいいなって」

まったく未経験だった飲食店の衛生管理などを一から学び直し、「MMM(トリプルエム)」をオープン。コンセプトは、単なるカフェや場所貸しではありません。

「目指したのは、街や人がつながっていく『点と線』の交差点。例えばここでコーヒーを飲みながら雑談している時に、『部屋の片付けに困ってるんだよね』って相談があれば、『あそこに詳しい人いるよ』って紹介できたり。困った時に誰かが誰かをつないでくれる、そんな役目が果たせればいいかなって」

井上さんの言葉通り、取材中も近所の方がふらりと訪れては世間話に花を咲かせる様子は、まるで「街の交差点」。デジタル化が進む現代だからこそ、こうしたリアルな「お節介」が焼ける場所が、街には必要だったのかもしれません。

「神7(カミセブン)」を売り込め!? 新・弁天通クラブの挑戦

参照:弁天通商店街

「街をなんとかしたい」という想いは、沢井理事長をはじめとする商店街の先輩たちも同じです。しかし、世代が違えば、見ている景色や手法も異なります。井上さんはある日、先輩たちの会議に参加して、大きな衝撃を受けたそうです。

「ある会議に呼ばれたんですけど、みんな世間話ばかりで(笑)。『あれ? 議題は何? いつ始まるの?』って思ってしまって。でも、それはおじさんたちが長年やってきた『あうんの呼吸』だから、急に変えるのは難しいんですよね」

IGアリーナやプロバスケットボールチーム「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」との連携など、チャンスは目の前にあるのに、どう動けばいいか分からない――。そんなもどかしさを感じた井上さんは、会議の場で思わず口を挟みました。

「『おじさん、弁天通には七福神の像があるじゃん! あれ、今の若い子に向けたら“神7(カミセブン)”だよ!』って(笑)。ドルフィンズのユニフォームを石像に着せて、“神7”の缶バッジ作って、QRコードでお店を回遊してもらおうよ、とか。もう止まらなくなっちゃって」

その熱意は、停滞していた空気を動かしました。「やり方が分からないだけなら、私たちが動けばいい」。井上さんは、時計店のハナダさんや、若手のエステサロンオーナー、イタリアンレストランの店主など、志を同じくするメンバーと共に、別働隊「新弁天通クラブ」を結成します。

「大切にしているのは、先輩たちを否定しないこと。今まで街を守ってきてくれたおじさんたちには『ありがとう』の気持ちを持ちつつ、摩擦を起こさないように『ふんわりと』別で動く(笑)。『こういう面白いことやろうと思うんだけど、どうかな?』って、実例を持って提案していくスタイルですね」

高速道路で雑誌をパス!? 井上流「自由な発想」の原点

井上さんの口から飛び出すアイデアは、どれもユニークで規格外。「神7」の発想もそうですが、なぜこれほどまでに自由な発想ができるのでしょうか。そのルーツをお聞きすると、かつて暮らした海外での強烈な体験談が返ってきました。

「昔、オーストラリアに1年ほど住んでいたことがあるんです。向こうの文化って、本当にラフでカジュアルで、衝撃の連続でした」

中でも忘れられないのが、高速道路でのバスのエピソード。

「私が乗っていたバスと、別のバスが高速道路で並走し始めたんです。そしたら突然、運転手さんが窓を開けて、隣のバスの運転手さんに丸めた雑誌をポーンと投げ渡したの! 高速道路で走行中ですよ? まるで映画の『ワイルド・スピード』みたいでしょ?(笑)」

日本では考えられないような光景ですが、井上さんはそこで「あ、こんなに自由でいいんだ」という感覚を肌で学んだといいます。

「日本人は礼儀正しくて素敵だけど、ちょっと真面目すぎるところがあるかも。『もっとラフに、もっと自由に楽しんでいいじゃない』っていうのが、私の根底にあるんです」

その「Why not?(なぜやらないの?)」の精神が、弁天通商店街という伝統ある街に、新しい化学反応を起こそうとしています。

ビアバイクにダンスナイト。夢は「ビクトリーロード」

参照:PIXTA

井上さんの頭の中には、今、実現させたい「街のアソビ方」の構想がたくさん詰まっています。 その一つが、「ビアバイク(Beer Bike)」の運行です。

「オランダ発祥の乗り物なんですけど、みんなでペダルを漕いで進む移動式のビアバーなんです。運転手さんはシラフだから法律的にもOK。IGアリーナから商店街までの広い道を、ビールを飲みながらみんなで漕いで周遊するんです」

「サントリーさんやドコモさんにスポンサーになってもらって、ロゴ入りのバスを走らせたら絶対楽しいでしょ? 実はもう、ビアバイクを作っている神戸の方にメールも送ったんです(笑)」

さらに、商店街と音楽・ダンスを融合させるアイデアも。

「母がお世話になっている70代の現役ダンス講師の方がいらっしゃるんですが、その教室には新聞でも取り上げられた97歳の現役生徒さんもいるんです。そんなパワフルな皆さんが今、『この街でダンスパーティーをやろう』って盛り上がっているんです。IGアリーナもできるし、実は近くの駅ビルの地下に新しいライブホールができる計画もあるらしくて」

参照:PIXTA

井上さんが描くのは、IGアリーナから浄心駅までの約1キロの道を「ビクトリーロード」として、キャンドルやイルミネーションで彩る未来。かつて足助町で行われた「たんころりん(竹かごの灯り)」のイベントのように、光の演出で人を導くアイデアです。

「IGアリーナ、新しくできるホール、そして商店街。バラバラにある『点』を線で結んで面にしていく。そうすれば、街はもっと面白くなる。誰かが『これやろう!』って旗を振れば、『楽しそう!』って乗っかってくれる人はたくさんいると実感しています」

【取材後記】

「私がここにいると、なぜかいろんな人が集まってくるの」と笑う井上さん。
取材中も、通りがかりの人が手を振ったり、いつの間にか相談事が始まったり。「MMM(トリプルエム)」は、井上さんの太陽のような人柄に引き寄せられた人々が、自然と交流する「交差点」になっていました。

「歴史」という縦糸に、「新しいアイデア」という横糸を大胆に織り込んでいく井上さんの挑戦。
懐かしくも新しい、弁天通商店街の次なる展開から目が離せません。

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