「食べるプロセスも、おいしい。口福は三度、訪れる。」
備長ではひつまぶしの楽しみ方をこう紹介している。この言葉の通り、ひつまぶしはそのままで、薬味を添えて、最後はお茶漬けで、三通りの食べ方を楽しめるのが特徴だ。
ひつまぶし備長は、今年で創業34年を迎え、国内に12店舗を構えるひつまぶしの専門店である。そんな「備長」の創業者であり、うなぎ料理の職人でもある鈴木社長に、ひつまぶしに込めた想いとこれから考える施策について話しを伺った。
名古屋ひつまぶし「備長」のはじまり

「僕の親戚が商売を営んでいたこともあり、人を集める方法を考えることに長けていたと思います。大学時代にはスキー場までの貸切バスとペンションの宿泊をセットにしたバスツアーを企画して、50人乗りのバスを満席にさせてしまうこともありました。それで、旅行会社の手も借りてバスツアーを企画するようなアルバイトもしていましたね。ビジネスに触れる機会が学生時代にあったからこそ、大学卒業後は、起業しようと自然に考えるようになりました。考えていくなかで、飲食業に行きつきました。」
創業者である鈴木社長にとっての一番美味しいものをビジネスにしたのが、うなぎ専門店のはじまりだった。大学卒業と同時に、名古屋と福岡の二拠点で修行を積み、創業に至る。
名古屋の老舗「うなぎの西本」では、修行を通して、名古屋ならではのうなぎの焼き方「地焼き」を学んだ。
鈴木社長が独立をしたのは、10年の修行を経た1992年のことである。
創業から守られる備長の想い

西本から独立して34年が経った今、鈴木社長が「修行時代から徹底している」と話す創業当時から守り続ける大切な想いがある。
「飲食をする上で大切にしているのは、焼きたてのうなぎと、炊きたてのご飯です。」
どんな料理にも共通する美味しい瞬間があるとすれば、それは作りたての瞬間だろう。その瞬間は、備長のひつまぶしでも同様だ。
一番美味しい状態でお客様にひつまぶしを提供するという想いは、12店舗の社員にも浸透している。
「11時の開店だとしたら、うなぎは11時(開店と同時)からしか焼かせないんです。」
これは、うなぎを焼きたてで提供するために徹底していることのひとつ。同じように、ご飯を炊きたてで提供するための工夫も備長にはある。
「炊くのに時間のかかるご飯でも、開店前の10時30分から炊飯を始めれば、11時のうなぎを焼く間にお米が炊きあがります。そうすると、うなぎの焼きたてに合わせて、炊きたてのご飯が提供できるんです。」
うなぎはオーダーを受けてから焼くため常に焼きたて、ご飯もあえて2升(20人前相当)までしか一度に炊けない釜を使い、こまめに炊き直す。
効率の良さよりも美味しさを第一に考える社長の想いは、マニュアルとなって全店舗に広がっている。
備長のうなぎが生み出す香ばしさ

ひつまぶしで主役となるのは、もちろんうなぎである。備長では、地焼きという方法で焼き上げる。蒸す工程を含めずに、炭火だけで焼き上げるのが地焼きの特徴である。
「地焼きで1番大事なことは、うなぎの皮の固さに合わせた焼き方です。備長では、串に刺すときに、皮の固さを選別して焼き時間が同じになるように調整しています。うなぎの顔を見れば、皮がやわらかい、ふつう、固いと、見分けられるんですよ。」
固さに合わせた焼き方には3つの要素が必要だという。「炭とうなぎと職人のコラボ」と鈴木社長は語ったが、皮のやわらかさの見極めも、まさに職人技のひとつだろう。
皮のやわらかさに応じて、焼き時間は3~4分も変わる。そうなれば、炭火の強さも調整が必要だ。
炭火の強弱は、炭の置き方を手前と奥で変えることで、手前は強火、奥は弱火と炉の温度管理をしている。じっくりと火を通すために、時には弱火で長く焼くことも必要である。
「うなぎがタレを欲しがる瞬間ってあるんです。そのときは、細胞が開きます。その瞬間を見極めて勢いよくタレに潜らせると、煙じゃなくて蒸気が出るんですよ。」
二度目の炭火では表面を炙り、三度目の炭火では乾かすだけに留めると、皮の表面をパリッとさせることができる。うなぎのタレをよく切ることも、炭を冷やさないために必要な行程だという。
ここで、初めて備長のひつまぶしを食べる人に着目してほしい点を聞くと、「香ばしさ」とシンプルな答えが返ってきた。
「職人が丹精を込めて焼いてくれるうなぎは、表面がカリカリになるので、お茶漬けも備長では楽しんでほしい。」
加えて、香ばしさを感じるための美味しい食べ方も紹介してくれた。
備長のうなぎの引き立て役は濃厚なタレ

かつて西本で修行を積んだ鈴木社長は、西本のタレに惚れ込んだ。「西本のタレでひつまぶしを食べたら絶対に合う」と確信する。うなぎ専門店からさらに的を狭めて、ひつまぶし専門店へと飲食店の焦点を絞っていく。
名古屋で一般的に食べられる家庭の味をベースに、そして西本で味わったタレをヒントに、たまり醤油とみりんと砂糖を混ぜた備長独自のタレを生み出した。シンプルな材料でありながらも、醸造の過程で旨味とコクが凝集されたたまり醤油は、他の醤油にはない奥深さがある。
「僕の家では子供の頃から、刺身はたまり醤油で食べるんです。それをご飯の上に乗せて食べたら最高に美味しい。赤味噌から由来するたまり文化が名古屋めしの文化ですよね。ご飯に合うたまり醤油に甘みを付け加えたのが、備長のタレです。」
備長のタレには甘みがあるからこそ、わさびやネギのような辛みとの相性もいい。薬味に合わせるネギには、一晩水にさらした白髪ネギを使い、シャキシャキとした食感が楽しめるのも、備長ならではの工夫のひとつだ。
「備長」が描くこれからーうなぎ文化を広める。

鈴木社長がこれから目指していくことは「うなぎ文化の伝承」だという。創業30年を越え、老舗企業になった今、継承ではなく伝承を目指す。それは、企業の成長を目指すことから、うなぎを提供する飲食店全体の発展を意味する。
「うな丼、うな重に続いて、ひつまぶしと言われる文化を作りたいー。
ひつまぶしを名古屋から発信する。徳川家康が名古屋城から全国制覇したみたいに、今のうなぎの食文化を名古屋から広められたら一番嬉しいですね。」
事実、名古屋から東京、大阪、福岡へと人が集まる場所に出店し、ひつまぶしの知名度をあげることに寄与している。
ここで、他のうなぎ料理店に比べると、備長の店舗は入りやすい店構えをしていることに気が付く。というのも、鈴木社長は店舗デザインに「若い世代でも入りやすい」ことを追求している。
「30代の女性デザイナーに、『あなたが入りたくなるような店舗デザインを作ってほしい』とお願いしました。」
若い世代のデザイナーに設計を依頼することで、同年層の客層も狙っていく。
「備長」が描くこれからーひつまぶしの食べ方を世界へ。

近年では、国外からも、食べたい和食として「hitsumabushi」の存在が海外に知られるようになってきた。韓国から比較的アクセスがよい福岡の店舗には、韓国人観光客が多く訪れるという。そう話す鈴木社長は、うなぎ文化の伝承先として海外も視野に入れていた。
「ひつまぶしという料理には三通りの食べ方があることを海外にも伝えていきたい。」
一方で、国内や海外にうなぎ文化を伝承していくためには、うなぎを焼く職人の育成が欠かせない。その課題に向き合うために、備長ではうなぎ料理の技術と文化を学ぶ「名古屋うなぎ大学」を開校した。
通う生徒は、調理師学校の生徒や、特定技能外国人と国内問わず視野に入れている。実は、調理師学校ではうなぎを触る機会があまりなく、生徒側からのニーズは大きい。新たな職人を育てる場所として、鈴木社長は具体的な策を仕掛けた。
備長は変わらず美味しいひつまぶしを提供しながらも、着々と、うなぎ文化の伝承に向けても歩みを進め始めた。


株式会社 備長
代表取締役 鈴木 博
うなぎ料理店『ひつまぶし 名古屋 備長』『鰻 ひつまぶし 備長』『ひつまぶし 和食 備長』の運営およびサービス全般業務。愛知・東京・大阪・福岡で12店舗を展開。
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