名古屋城、尾張名古屋のうまいもの街
— Interview —
金鯱寿司
kinshachizushi
武藤 輝将
Terumasa Muto
名古屋城下の金シャチ横丁宗春ゾーンに2025年10月、「金鯱寿司」がオープン。同ゾーン内の「saien」をはじめ、和食居酒屋や創作日本料理店など国内外で複数の飲食店を展開する武藤氏が手がける寿司店だ。 カウンターには、寿司職人の育成機関で校長候補にも名が挙がった経験豊富な寿司職人も立ち、武藤氏と二人三脚で店づくりに臨んでいる。
金鯱寿司では、その時々の新鮮なネタにこだわり、名古屋ならではの創作寿司を提供。昼は手軽に楽しめる一品料理、夜はカウンターで一貫ずつ握るこだわりのコース料理と、時間帯によっても異なる楽しみ方ができる。 今回はオーナーの武藤氏に、これまでの経歴や金鯱寿司の魅力について話を聞いた。
——武藤様が料理の道に進まれたきっかけについて教えてください。
料理人としてのキャリアは、名古屋市北区で父が営んでいた、とんかつ店「なべや」にルーツがあります。ただ、最初から料理の道に進もうと思っていたわけではなく、父の店を継ぐつもりは全くありませんでした。むしろ、母からは「調理の道だけではなく、他の選択肢もあるのよ」と、よく言われていたほどです。
それでも、父は熱心でした。毎日のように、常連の方が喜んでくれた話を、うれしそうに語るのです。 その横顔が、なぜか心に残り——私は遂に、その姿を見て心を動かされ、「じゃあ、1週間だけ手伝ってみるよ」とボソッと口にしてしまいました。
一度店で働いてみると、考えが大きく変わりました。もともと料理や接客自体は好きだったことに加え、「食の可能性を広げ、父を超える技と味で、より多くの人に堪能していただき、その魅力を知ってほしい。」という意欲が湧いてきたのです。気がつけば、この仕事にすっかり心を奪われていましたね。
——現在、飲食店を複数店舗経営されていると伺いました。
はい。現在、様々なジャンルの飲食店を、国内外で展開しています。
具体的には、金シャチ横丁の宗春ゾーンにある vegetable cafe & seafood bar「saien」 をはじめ、名古屋めしダイニング「テバサカバ」、岐阜県の千代保稲荷神社にはスイーツ店 「おちょ福」 を展開しています。
さらに、今月10月には沖縄県那覇市でアグー豚をメインとした飲食店 「アグーダイブ」 をオープンしました。また、ベトナムには創作日本料理店「風(KAZE)」を立ち上げ、岐阜には食品加工工場を建設して冷凍宅配弁当会社への卸売事業も行っています。
これほど多岐にわたる展開ができたのは、本当にその時その時の流れやご縁に導かれてきた結果だと感じています。
もともとは、父が営んでいたとんかつ店 「なべや」 が始まりです。「なべや」は、親の代からとんかつに加えて刺身を出すなど、地域に根差した飲食店へと変化していきました。その背景と、「より多くの人に味わっていただき、喜んでいただきたい」という私自身の思いから、和食・日本料理、居酒屋へと業態を変え、北区黒川付近で3店舗まで拡大しました。
そして、金シャチ横丁への新規出店を機に再スタートを切ったのが、現在の「saien」です。
——金鯱寿司をオープンさせるにいたった経緯は?
金シャチ横丁の宗春ゾーンに「saien」をオープンさせた当初から、「ここに寿司屋があれば、お客様にきっと喜んでいただける」——その想いを胸に、技術と経験を磨き、挑戦を重ねた結果、「金鯱寿司」が誕生しました。
和食・日本料理を営んでいた時代も、お客様に寿司を握って提供していましたので、 今回「金鯱寿司」を始めるにあたって、「面白い」と感じた要素やアイデアを、積極的に反映させていきたいと考えています。
——金鯱寿司のコンセプトについて教えてください。
当店は、創作寿司のお店です。そのため、伝統的な江戸前寿司をベースとしながらも、素材の組み合わせや盛り付けで新しいお寿司の楽しみ方を提案していきます。
創作寿司として、伝統ある寿司の良い部分を守りながらも、他ではやっていないような新しい挑戦にも取り組んでいきたいと考えています。
また、もう一つのコンセプトは、高級寿司店の味を、もっと気軽に楽しんでいただくことです。
お昼は海鮮丼などの定番料理から、夜はカウンター席限定の特別なコースもご用意しています。 夜の限定コースでは、味も内容も充実した価値ある逸品をご提供し、より多くの方に、本格的で独創的、五感で楽しめるお寿司の感動をお届けできればと思っています。
——金鯱寿司の魅力はどういったところでしょうか?
金鯱寿司の魅力は、旬の食材、新鮮なネタにこだわっているところです。 仕入れは私自身が市場に足を運び、実際に目で見て確かめています。
旬のものは美味しいだけでなく、その時期ならではの香りや食感、彩りがあります。つまり、口にすることで季節の移ろいを感じられる——それが旬の魅力だと思っています。そんな食材をできる限り取り入れたいです。
また、一貫ごとのネタの大きさや切り方にもこだわって提供します。例えば、一貫の握り方は昼と夜でも変え、夜の限定コースでは、カウンター越しにお客様の目の前で握りながら、食べるペースや状況に合わせて臨機応変にお出しします。
江戸前寿司の技法を基本としながらも、ネタごとに切り目や盛り付けを工夫するため、見た目からもお楽しみいただけるはずです。
——おすすめのメニューはありますか?
仕入れる食材によってメニューを変えていくので、その時々の旬のネタを楽しんでいただければ幸いです。例えば、ひとつ挙げるなら当店は、鰻の焼き方にこだわりを持って提供しています。鰻の焼き方にはもちろん好みがあるかとは思いますが、「皮がパリッとした焼き方」を追求し、徹底的に研究を重ね、独自の工夫を施し、他ではないような鰻に仕上げています。
伝統的な手法だけでなく、常に食の研究をし、美味しさを追求していく、これこそが、金鯱寿司ならではのスタイルだと考えています。
——お寿司で新しい名古屋めしを目指していると伺いました。地元名古屋の食材や文化をどのように取り入れられていますか?
当店は、単なる寿司店に留まらず、名古屋の味を深く楽しめる「新しい名古屋寿司」を目指しています。そのため、地元名古屋の食材や文化は、積極的にメニューに取り入れていきたいです。
先ほどご紹介した鰻も、名古屋らしさを感じていただけるメニューのひとつではないでしょうか。また、海老を裏返して盛り付け「金シャチ」に見立てた寿司もご用意いたします。これは、金シャチ横丁という場所の象徴を食で表現する遊び心です。
さらに、多様なニーズにお応えするため、さまざまな嗜好のお客様にも楽しんでいただけるよう、肉系メニューとして、名古屋味噌で味わうごちそう牛の贅沢ごはんをおひつでご提供いたします。
観光で名古屋を訪れたお客様は、「せっかくだから、名古屋らしいメニューが食べたい」と思われているはずです。そのため、地元名古屋のテイストを随所に散りばめてまいります。
——ほかにこの名古屋や東海地域ならではの食材はありますか?
基本的には、全国各地の旬でおいしいものを厳選してご提供していきますが、名古屋やこの東海地方で良いものがあれば、積極的にメニューに取り入れていく方針です。
例えば、三河地域で有名な大あさりを天ぷらでご提供するなど、地域食材も取り入れていきたいと考えています。
また、使用するお米については品種を一つに限定していませんが、この地域のお米では岐阜のハツシモ米を主に使用しています。粒が大きく粘りが少ないため、寿司のシャリに最適なのです。
——今後の展望を教えてください。
今後の目標は、海外や地方から名古屋にお越しの方々にとって、記憶に深く刻まれる「特別な思い出の店」となることです。 そして、地元の方が、「金鯱寿司が食べたい」から来店していただける、そんな地域に根差した店を目指します。
そのためにも、ご来店いただくすべてのお客様に、何度来ても常に新鮮な感動や新しい発見があるメニューをご提供し続けたいと考えています。
——最後に、金シャチ横丁を訪れる方々へ伝えたいメッセージがあればお願いします。
金シャチ横丁には、伝統、正統の「義直ゾーン」と、新風、変化の「宗春ゾーン」があり、それぞれ異なる魅力に溢れています。「義直ゾーン」では昔ながらの伝統的な名古屋めしを、「宗春ゾーン」では私たちのように新しい食文化へ挑戦をする店を楽しんでいただけます。 ぜひ、この金シャチ横丁周辺で一日を心ゆくまでお楽しみいただき、名古屋の食と文化を満喫していただければと思います。 そして、私たち金鯱寿司が、お客様の名古屋での時間をより豊かで心に残るひとときにできれば幸いです。
電話番号 052-386-6326
営業時間 11:00〜15:00(L.O.14:30)/17:00〜23:00(L.O.22:00)
座席数 29席