名古屋能楽堂の魅力とは?歴史・見どころ・能楽体験を館長に聞く

檜の香りがふわりと漂う舞台。

静寂に包まれた空間に、お囃子(おはやし)の音が響く。

名古屋城のすぐそばにある「名古屋能楽堂」には、日本の伝統と美が溶け合う幽玄の世界が広がっている。

名古屋能楽堂は、630席を備える世界最大級の能楽堂だ。ここでは、650年以上続く日本の舞台芸術「能楽」に触れることができる。能楽とは、主に面をかけて演じる歌舞劇の「能」と、日常生活を描いたせりふ劇の「狂言」の総称をいう。

能楽と聞くと、敷居が高いと感じる人もいるかもしれない。しかし名古屋を訪れた際には、ぜひこの名古屋能楽堂にも立ち寄ってみてほしい。

そう語るのは、名古屋能楽堂の館長だ。今回は館長に、名古屋能楽堂の魅力や、日本文化を未来へつなぐ取り組みについて話を聞いた。

目次

「名古屋能楽堂」のはじまりと歩み

檜舞台鏡板:老松図
能面かけ体験コーナー

名古屋能楽堂は、2027年に開館30周年を迎える。その歴史の幕開けは1990年のこと。当時の名古屋市長が「名古屋城をより魅力あるものとするためにお城近くに能楽堂を建設しよう」と思い描いたことによる。それから7年後の春、名古屋城のすぐそばに能楽堂が開館した。

江戸時代の名古屋城には、芸能役者と観衆が集っていた。現代の名古屋能楽堂もまた、東海地方の能楽の拠点としての役割を担っている。

同時に、能楽に親しむきっかけとなる場でもある。

「能の楽器を体験できるワークショップや、能楽がはじめてという方に向けた能楽入門講座など、能楽を親しむ人の裾野を広げられるよう、様々な企画を催しております。」

若い世代へも能楽に親しむ機会を設けている。

子ども向けには、「小中学校芸術鑑賞会」や「夏休み親子能楽堂まつり」などのイベントを企画。児童から能楽師への質問コーナーを設けたり、仕舞や謡を能舞台の上で体験できたりといった内容で、参加者からも好評だという。

幽玄の世界を体感する―名古屋能楽堂の三つの魅力―

2階から能舞台を見た様子
現在の能舞台鏡板:若い松が描かれているのは名古屋能楽堂だけ

「世界最大級」と言われる名古屋能楽堂。しかし、この場所を訪れて感じてほしいのは大きさだけではない。ここには、名古屋能楽堂ならではの魅力が三つある。

「名古屋能楽堂の舞台は、現代人の体格に合わせて通常の能舞台の規格より大きく作られています。より一層、迫力のある演能を楽しんでいただけます。」

と、まずは鑑賞して分かる魅力を挙げた。

次に語ったのは、香りである。

「開館から30年程経ちますが、今でも舞台から檜のよい香りを感じていただけます。この檜は伊勢神宮の社殿にも使われる木曽檜(きそひのき)という材木です。見た目にこだわり、節がないものだけを使用しています。」

そして最後は、この能楽堂ならではの鏡板(かがみいた)だ。能舞台を正面から見ると、後ろの壁には松が描かれている。通常、力強く成熟した松が描かれることが一般的だがー

「鏡板は老松を描くのが一般的で、若い松の鏡板は名古屋能楽堂でしか見ることができません。愛知県にゆかりのある作者の杉本健吉氏が、能楽堂の新たな発展を願って、若い松を描いたと言われています。老松と若松を一年毎にかけ替え、一枚を舞台で使用し、もう一枚を展示室に展示しています。本物の鏡板を間近に見られる展示は貴重な機会です。」

本来なら客席からしか見ることのできない松。ここでは、筆跡まで間近に見ることができる。

芸どころ名古屋と尾張徳川家

能面:左から「邯鄲男(かんたんおとこ)」「獅子口(ししぐち)」「小獅子(こじし)」
能装束の一つである厚板(あついた):板のように厚い生地で作った袷(あわせ)の小袖で、主に鬼神・武士・公家などの男性の役に用いられる

名古屋は古くから「芸どころ名古屋」と呼ばれ、芸能文化が盛んな土地として知られてきた。その背景には、江戸時代にこの地を治めた尾張徳川家の存在がある。名古屋の能楽も、その影響を大きく受けている。火付け役となったのは、七代目藩主の徳川宗春公だ。

宗春公は、江戸(東京)で質素倹約の風潮が広まる中、芝居や芸を楽しみ、祭りを盛り上げる経済政策を行った。それによって名古屋には活気が生まれ、繁栄をもたらしたという。

時には町人や百姓を名古屋城に招き、演能を行うこともあった。こうして町民や百姓も芸を楽しむようになり、能楽は次第に大衆へと広まっていく。

東西からのアクセスがよく、全国から芸能役者が集まった名古屋は、やがて「芸どころ名古屋」と呼ばれるようになった。江戸時代に育まれた能楽の面影は、今なお残っている。

「江戸時代の名古屋城の舞台では、謡初め(うたいぞめ)という行事で賑やかに新年を祝っていました。名古屋能楽堂は、お城の隣に建てられたご縁で、毎年一月二日に『新春謡初め』を開催しています。尾張徳川家の時代に築かれた文化が、今の能楽にもつながっていると思います。」

この名古屋能楽堂の新春謡初めでは、名古屋ならではのシテ方五流を見ることができる。能楽の世界には、シテ方(主役を演じる役)の流派として五つの流派が知られているが、ひとつの土地ですべての流派を見られるのは全国的にも限られている。

名古屋能楽堂として伝統を未来へ

名古屋能楽堂にあるフォトスポット案内
館長らに能舞台の裏側も見せてもらった

能楽は2008年にユネスコ無形文化遺産に登録された。しかし、能や狂言を鑑賞したことのある人はそう多くない。

そこで館長に、名古屋能楽堂が目指すこれからの姿について伺った。

「能や狂言といった伝統芸能は、担い手・受け手ともに高齢化が進み、年々そこに関わる人口が減ってきているという課題があります。名古屋能楽堂では、これまで来てくださっているお客様に加え、外国人の方や若い世代の方など、より多くの人が能楽に触れ、親しむ機会を提供したいと考えています。そうすることで、日本が誇る伝統芸能を未来へつなげていきたいです。」

能楽の敷居を下げるため、「能楽入門講座」の開講や、二か国語で解説が聞けるイヤホンガイドの貸出を行っている。初めて能楽を鑑賞する人や外国人観光客をサポートする取り組みだ。さらに、より深く能楽を楽しみたい人向けには、講師を招いた「事前学習講座」を用意している。この講座に参加すると、背景や見どころを理解したうえで鑑賞できるため、能楽の世界をより味わうことができるという。

能楽を親しむ場を提供する一方で、館長には「まずは名古屋能楽堂そのものを知ってほしい」という思いもある。

舞台の上で見られるのは、能や狂言だけではない。舞台や舞台に通じる橋掛りを存分に活かして、ファッションショーやコンサートなど、様々な催しが行われている。

「名古屋能楽堂は、舞台自体にも見ごたえがあり、檜の香りもとてもいいです。このような場所で和の雰囲気を感じて、いいなと気に入ってもらえたら嬉しいです。」

館長の言葉を聞き、伝統芸術の世界へ足を踏み入れるきっかけは、建築からでもよいのだと気付かされた。

名古屋を訪れたときには、ぜひ名古屋能楽堂にも足を運んでみてほしい。

檜の香りが漂う静かな舞台。ここでの体験は、名古屋の旅にそっと余韻を残してくれる。

公益財団法人 名古屋市文化振興事業団
名古屋能楽堂

館長 寺脇 慎介
職員 河村 珠美

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